新子
光物の定番の一つが、
小肌(こはだ)で、沼津の魚市場に入荷してくる小肌の殆どは、
佐賀県有明海産です。小肌は、一年を通じて、入荷してくるのですが、6月の半ばを過ぎた頃になると、小肌の幼魚の新子(しんこ)が、
入荷し、
一緒に、売場に並ぶこともあります。大きさの違いは、
一目瞭然です。小肌は、鮗(このしろ)の若魚で、新子、小肌、なかずみ、鮗と名前が、変わります。しかしながら、出世魚とは呼びません。
というのも、小さければ、小さいほど市場価値があり、出世魚というのは、大きくなるにつれ、値段も上がるからで、小肌には、このことがあてはまりません。特に、出始めの新子のキロ単価は、入荷量も、ほんのわずかということもあり、天然の生の本鮪以上で、それこそ、目が飛び出るほどの値段なのです。
光物である小肌は、『佳肴 季凛』のような日本料理店では、なくてはならない魚ということもあり、ある程度、値段が落ち着いてから、自分は使うようにしています。
ただ、料理の道の始まりは、鮨屋でしたので、新子を見ると、妙な胸騒ぎを覚えてしまうのです。この日は、値段もそこそこでしたので、
この一袋を、仕入れることにしました。ただ、小さくて、数が多い新子の仕込みは、職人泣かせですので、それなりの覚悟の上でした。
仕入れた新子は、500グラム入っており、大きさはまちまちでしたが、
大雑把に仕分けたところ、このような3つの大きさでした。鱗を取ってから、
頭を落としたら、
塩水の中に入れます。この時の塩水の濃さの目安は、海水程度です。終わったら、
氷水で、素早く、
2,3度、
水洗いします。まな板をきれいにしたら、開くのですが、その前に、
バットに細かくした氷を敷き、
別のバットを置き、
大きさごとに分け、開いていきます。言うまでもありませんが、こうするのは、鮮度が落ちるのを防ぐためです。
開き終えると、
全部で、64枚ありました。つまり、64匹開いたことになります。開いた新子は、それぞれの大きさが分かるように、
塩を敷いた盆ざるに乗せたら、量を加減しながら、塩を振ります。塩の溶け具合をみながら、
酢の入ったバットに昆布を浸します。酢は、
新子を仕込むので、穀物酢とりんご酢を同割りにしてあります。昆布が、
しんなりしたら、合わせ酢から、あげておきます。そうこうしていると、新子の塩が溶けてくるので、
水洗いをします。大きさも違うので、一度にこの仕事は出来ませんので、その都度、
様子を見ながら、やらなくてはなりません。全て水洗いをしたら、
今度は、
一度酢〆に使った二番酢で、それぞれを、
酢洗いします。その後、
先程、昆布を浸した合わせ酢に、大きさごとに付けていくのですが、大きいものから漬け、漬け終えたら、酢から上げ、その後、次の大きさのものを漬けていきます。
今回のように、一番小さいものは、酢だけでは、味が強くなってしまうので、
氷を入れ、酢の具合を加減してから、
漬けます。言い忘れましたが、酢〆の理屈は、塩で、余分な水分を取り除き、取り除かれたところに、酢が入り込むというものですので、塩加減が、キーポイントなのです。
全て、酢に漬けたら、余分な水分などを拭き取るために、
キッチンペーパーを、盆ざるに敷き、新子をおいてから、
その上にも、キッチンペーパーを乗せます。しばらくしたら、
穴開きのバットに新子をおき、
余分な水分を取り除くのと、旨味を補うために、先程の昆布を乗せます。これで、ようやく新子の仕込みが終わりました。
昆布で挟んでおくのも、半日程度が目安で、
頃合を見て、昆布を外したら、このまま冷蔵庫にしまっておきます。コース料理をメインとしている当店ですので、
鱧料理コースのお客様には、このような四種盛りで、お出しし、新子以外のものは、生の本鮪(大間)、鱧(和歌山)、湯葉でした。
新子だけの場合は、
大中小のバランスを考えながら、このように、盛り付けてみました。
脇役に近い小肌ですが、新子の出回る一時季は、主役になります。こういうのも、季節を重んじる日本料理の趣の一つかもしれません。
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